LOGINヨーリィはうつ伏せに倒した敵に乗りかかり、両腕を後ろで固めて動きを封じた。「マジックバインド!」 ユモトは魔法の縄で敵の手足をしっかりと拘束する。「さーてさて、どんなお顔をしてるのか見せてもらうかな」 ルーは歩いて動けない敵の前へと行くと、しゃがみこんで仮面に手を掛けた。「やめろ、やめろー!!!」 そんな敵の声を無視して仮面を取り上げると顔があらわになる。 女は割と整った顔立ちをしているが、目は殺意と憎しみに満ち溢れていた。 そして、何より左頬にケロイド状の火傷の痕が見える。「っぐ、殺す、殺す!!」「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて」 ルーはニコニコして言った。ムツヤ達は少し遠巻きにそれを見る。「聞きたいことは山ほどあるけど、なんでキエーウなんかに入ってるの?」 女は歯ぎしりをし、視線だけをモモの方に向けて言った。「オークをこの世から皆殺しにするためだ!!」 モモはそれを聞いてドキリとする。「事情は知らんが、充分に危険思想だな。縄で縛り直して治安維持部隊に引き渡すぞ」 この時、アシノ達は油断をしていた。遠くから飛んでくる矢に気づけたのはムツヤだけだった。 まっすぐユモト目掛けて飛んでくる矢、ムツヤはユモトを庇おうとタックルをして押し倒す。 矢はギリギリの所でかわせたが、ユモトの拘束魔法が一瞬緩んでしまった。その隙きを見逃さずに女は飛び起きてムツヤ達と反対方向に走り出した。「待て!!」 追いかけようとするが次々と矢が飛んできて、アシノ達は地面に伏せた。ムツヤはそんな事お構いなしに女を追いかける。「ははは、やっぱり君は強いねぇ。ムツヤくん」 この男の声をアシノは知っている。忘れもしない。「ちょっと俺と遊ぼうか」 かつてアシノの仲間であり、今はキエーウに所属しているウートゴがムツヤ達の前に立ちはだかった。 刀身の反った細身の刀をウートゴは取り出す。そして次の瞬間ムツヤは目を疑った。 ウートゴは目の前で3人に増えたのだ。思わずムツヤは走るのを止め、警戒をする。「ムツヤ!! それは東の国の魔術だ!! 気を付けろ、全員実体がある!」 アシノはそう叫んでムツヤに警告した。仲間たちはユモトが貼った防御壁で遠くから放たれる矢を防ぎながらゆっくりとムツヤの元へ進む。「ムツヤくん、俺と友達にならないか? 君の力と裏の道具があれ
「ムツヤ殿はハーレムを作るのが夢なのですよね」「はい!」 モモが尋ねるとムツヤは目を輝かせて返事をする。ムツヤがハーレムというものを誤解している事はこの際置いておく。「その、誰か1人の女性と恋をして、その…… 結婚するなんて事は考えていないのですか?」 その質問にムツヤはうーんと腕を組んで唸ってしまう。「誰かと1人よりも、今みたいにみんな大勢で一緒に居た方が楽しくないですか?」「それはそうですけど……」 モモも村を出て大変な毎日を送っているが、楽しいという気持ちは心のどこかにあった。「俺は皆といつまでも一緒にいたいんですよ」 笑顔でそう言われるとモモも今は説明をやめておこうと思った。全ての騒動が終わって、その時ムツヤに決めてもらおうと。「そうですね、皆いつまでも一緒に居られたら…… それは素晴らしいことです」「ムツヤさーんモモさーん。デザートのタルトどうですか?」 ユモトはハチミツのタルトを持ってこちらに歩いてきた。「やーん、わだしもたべだああい」 そんなユモトにルーは抱きついて、思わずバランスを崩しそうになる。「お前はおとなしくしてろ!」 アシノがユモトを支えてルーにデコピンをした。「へぷち」と声を出してルーはおでこを押さえた。「お兄ちゃん、魔力が足りなくなってきた」 音もなくいつの間にか隣に座っていたヨーリィはムツヤの手を握る。 モモは思わずフフッと笑ってしまった。「モモさん、どうしたんですか?」 ムツヤが言うと意地悪っぽくモモは返す。「内緒です」「えー! どうしてですか?」「どうしてもです」 こんな仲間と一緒の日々がいつまでも続けばいいとモモは思っていた。 一方その頃、冒険者ギルドではトロールの群れと魔人に勝利した事よりも、謎の青い鎧の冒険者の話題でもちきりだった。「あの青い鎧を着てたアイツって何者なんだ?」「俺だって知りてぇよ。あんな戦い方、勇者でも出来ねぇだろ」 酒を飲みながら冒険者たちは謎の人物の考察をする。「アレだけ強かったら相当有名なはずだろ? でもわざわざ正体隠すなんて何か訳ありなんじゃねーのか?」 冒険者はああでもないこうでもないと話をしていた。 ムツヤ達は孤児院での食事の片付けを手伝うと、宿屋へ戻って寝ることにした。 駆けつけた冒険者達はギルドや住民の善意で家に泊めてもらってい
「目標の消失を確認、我々の勝利だ!」 治安維持部隊の隊長が言うと疲れからか、しゃがみ込む者や武器をしまって街へ戻ろうとする者ばかりだった。 トロールとの戦いを終え、魔人を退けたのだから勝利を喜ぶ歓声の1つでも上がるべきなのだろうが、別に思うことがある。 あの青い鎧を着た人物は何だったのだろうと。「ムツヤと合流して街へ戻るぞ」 座り込んでいるルーに手を差し伸べてアシノは言った。「えぇ、そうね」 手を握り、ルーは立ち上がる。パンパンと服の汚れを軽く落とすとふぅーっとため息を吐いた。 ムツヤは森の奥で着替えをしている。イタガ攻防戦の功労者は月明かりに照らされてまたパンツ一丁になった。 いつもの服を身にまとった後、森の中で待っているとアシノ達がやってきた。「ムツヤ殿、良かったご無事で……」 1番心配していたモモはそう言って安堵する。「はい、モモさん達も怪我をしてないみたいで良かったです」「長くなる話は後でだ。早く戻らないと怪しまれる」「そうですね」 割って入ったアシノにムツヤが返事をした。そしてカバンに鎧とテントをしまって街へと急ぐ。 街の中へ入るとどこの家も店も明かりが付いていて賑やかだった。飲食店は街を守った英雄たちにねぎらいの料理と酒を出すことに大忙しだ。 ムツヤ達は冒険者ギルドへと向かう。ギルドマスターから聞かれる事は大体想像できたが、アシノは仲間がボロを出さないかだけが心配だった。「始めに言っておくぞ、私達は全員トロールと戦っていた。話は私に合わせてくれ」 小声でアシノが耳打ちすると全員がうなずいた。冒険者ギルドへ入ると夜中だと言うのに随分な賑やかさだ。「あ、お待ちしていましたアシノ様! クーラ様がお待ちしておりますのでこちらへどうぞ」 受付嬢はアシノの顔を見るなり近づいて声をかけた。「はい、わかりました」 ムツヤ達は奥の部屋へと通される。そこにはこの街の冒険者ギルドのマスター、クーラと幹部たちが神妙な面持ちで待っていた。「アシノ様、この度は街をお救い頂きありがとうございます」「いいえ、皆が一丸となって戦ったからです。私は大したことはしていません」「いえいえ、またご謙遜を」 そんな会話をしている間もクーラは心が別の場所にある。「それで…… お尋ねしたいことがあるのですが」 来たかとアシノは思う。「あの魔
アシノ達がトロールと戦っている時と同じ頃、ムツヤもトロールの群れと遭遇していた。「ぐおおおおおお!!!!」 1匹のトロールが叫び声を上げながら棍棒を振り上げて走り寄ってくる。 青い鎧を身にまとったムツヤは一瞬で距離を詰めて右手でトロールの腹を力いっぱい殴った。「ぐぷっ」と妙な声を出してトロールは吹き飛び、木に激突し、絶命する。木はメキメキと音を立てて折れる。 混乱するトロール達をよそに、ムツヤは次の1匹に走り、飛び蹴りを食らわせた。他のトロールを巻き込みながら吹っ飛んでいく。 トロールがムツヤを囲み始める。剣を抜いて1匹の首を刎ねたかと思うと、そのまま回転し次の1匹の腹を切り裂き、飛び上がってトロールを縦に真っ二つにする。 ムツヤの中に高揚感が溢れ出てくる。人目を気にせず思う存分戦える喜びが記憶の底から戻ってきたのだ。 背後を取った敵を足払いし、宙に浮かすとそのままサマーソルトキックを繰り出し、天高くトロールを打ち上げた。 他のトロールとの戦いでも剣で切る以外に何十匹も宙に打ち上げ、アシノや街の冒険者達が目撃したのはそれだ。 ムツヤの居る方角は月明かりを背にしているため、より一層目立つそれは街の冒険者をどよめかせた。「おい、森ン中で何が起こってんだ?」 トロールを4人がかりで仕留めた冒険者が肩で息をしながら言った。「知らねぇよ、それよりまだ来んぞ!!」 街の高台から戦いを眺め、指揮を取っていたクーラと治安維持部隊長も困惑をしている。「クーラさん、あれは一体……」「私にもわかりません」 森の中でトロールを殲滅したムツヤが、更に街へ向かうトロールを駆逐していた頃。また別の出来事が起きる。 森の奥から羽の生えた人影が真っ直ぐに街へ向かって飛んできた。 するとトロールは一旦街から引いてその人影へ向かって集まり始める。「皆さん、戦いは楽しんで頂けたかな?」 声を大きく拡散させる魔法を使っているのか、その声は戦う者たち全てに聞こえた。「ドエロスミス将軍!!」 ルーは忘れもしない昨日出会った魔人へ魔法で増幅させた大声で言った。周りも「ドエロスミス将軍?」と首を傾げている。「我が名は『ギュウドー』新たに生まれた魔人です。どうかお見知りおきを、と言っても次があるかはわかりませんがね」「ドエロスミス将軍、降りてきて戦いなさい!!」
「……、どういう事よ」 ルーはジト目でアシノを見つめた。「ここを私達の拠点にして彼奴等を迎え撃つんだよ」「この様な場所で良いのでしょうか?」 ユモトも不安そうに尋ねた。アシノは一体何を考えているのだろうと。「こんな場所だから良いんだよ、ここは街が近いからどこから攻められてもすぐに駆けつけられる」「それなら街の中に居れば良いじゃない!!」 ルーがもっともらしい意見を言うが、アシノは首を振る。「ぶっちゃけた話、あの魔人に抵抗できるのはムツヤぐらいしか居ない。だが、ムツヤは正体を隠さなくてはいけない」「そんな事知ってるわよ」「だからムツヤには正体不明の冒険者になって貰わなくちゃ困る」 ハッとモモは気付き、アシノに言う。「つまり、襲撃が始まるまでここで待ち、始まったら変装したムツヤ殿を……」「その通りだ、考えたがそれが最善だと私は思う。色々と無茶な部分はあるが、街を守るためには仕方がない」 アシノは自分の無力さに少し腹を立てていたが、冷静になることに徹した。「ムツヤ、昨日の装備に着替えておけ。カバンは私が預かる、必要な道具は今のうちにこっちの普通のカバンに移しておけ」「わがりました」 ムツヤは皆から見えない場所でユモトに手伝ってもらいながら青い鎧を身にまとった。その間手の空いている者たちはテントを2つ立てる。「ここからは持久戦だ、なるべく消耗を抑えて襲撃が来るまで待つぞ」 アシノが言うと皆うなずく。これから大きな戦いが始まると思うと、新米冒険者のモモとユモトは心臓の高鳴りが止められなかった。 それを見抜いたのか、アシノは2人に声をかける。「そう緊張するな、お前達は特訓もしたんだ。私達はムツヤのカバンを守りながらトロールを遊撃して倒していく、気を抜くのはダメだが、緊張しすぎるのも動きが固くなる」「はい、そうですね」「僕もできる限り精一杯の事をします」 モモとユモトは肩の力を抜いて言った。 それから皆はテントで武器の手入れや座って深呼吸などをしていた。アシノは寝っ転がり、ルーは爆睡している。 何故だか時間の進みが遅く感じた。 昼になっても何も起こらず、ムツヤ達は昼食を取っていた。緊張からか会話は少なく、ピリピリとした空気だったが。「やっぱユモトちゃんの料理はオイピー!!! 嫁にならない?」「ですから、僕は男です」 そ
「あ、あっすみませんムツヤさん!!」「? どうして謝るんですか?」 後ろを向いたままルーはクスクスと笑っている。モモは何だかまた嫌な胸騒ぎを感じていた。「え、これって服…… なんですか?」「わがりませんけど、着てみますか」 最初に手に取った服を見てユモトとムツヤは不思議に思う。ゴソゴソと音がしてしばらくするとムツヤが声を出す。「着替え終わりましたー」 その声を聞いて女性陣は後ろを振り返った。そこに居たのは全身黄色のタイツに身を包んだムツヤだった。「……なんだそれ」 アシノが一言ポツリと言うと同時にルーは指をさして笑い始める。「似合う、っぷくくく、似合うじゃない」「選んだのお前か!! お前街を守りたいのか守りたくないのかどっちなんだ!!!」 アシノは思わずルーの頭を引っ叩くと「パプゥ」と変な声を出した。「ふざけたわけじゃないわよ、あの黄色い服には何かとてつもないパワーを感じるの。そう、例えるなら宇宙のパワーを!!」「宇宙ですか……」 モモも若干呆れたように言う。ヨーリィは興味なさげにぼーっとムツヤを見ている。「何でずかね、この服を着ていると体を伸ばしたくなります」 言ってムツヤは手や足を伸ばし始めた。「力が溜まっていく感じがします、大きな声で数も数えたくなってきました!!」「いい加減にしろ、その服は却下だ却下」 ルーの選んだ黄色いタイツは却下されることになる。「ユモト、そいつはアホみたいに強いから見た目重視でいけ」「あ、はい、わかりました!」 そしてまた女性陣が後ろを向いてムツヤの着替えが始まった。「うーん、見た目重視ですか……」 ユモトは悩み、置かれている服と鎧を顔を赤らめながらパンツ一丁スタイルのムツヤにかざしてみた。「これとこれなんか良いんじゃないですか?」「うーん、これ入りますかね」「それじゃあ僕が広げて抑えているんで入れて下さい」「じゃあいきますよ」「あ、入った。そのまま動けますか?」「ちょっと動かしてみますね」 カチャカチャと金属音が聞こえるのでおそらく鎧を身につけているだけだろう。だがモモは何か変な胸騒ぎが大きくなる。 それからしばらくしてユモトが「よしっ」と小さく言ってから皆に声をかけた。「お待たせしました、もう大丈夫ですよ」 振り返るとそこには青い鎧に身を包んだムツヤがいた。顔も
朝になりユモトは目が覚めた。テントを出ると空は快晴で、眩しい朝日が出迎えてくれた。「ムツヤさん、ヨーリィちゃん、起きて下さい」 ユモトが二人の肩をトントンと叩くと、二人共むくりと起き出した。「ふーんあー…… おはようございますユモトさん」「おはようございますユモトお姉ちゃん」「おはようございます、でもお姉ちゃんじゃないからね?」 いつもの様なやり取りをして3人はテントを出る。そして、ムツヤのカバンから食材を出して朝食の準備をした。 簡単な朝食ができる頃、ヨーリィは女性陣のテントへ3人を起こしに行く。 全員が揃い、心地よい朝日のもとで穏やかな朝食が始まる。「ウゴオオオオオオ
「どう? 興味湧いちゃったでしょ?」 ルーは両手を後ろに回して、前のめりになる形で顔を突き出した。いつも軽口を叩いているギルスは呆然としている。「他にもモモちゃんが今持っているのは無力化の盾でしょ、それに私の新しい杖も名前はわからないけど魔力の伝導率は90%越えのすぐれものよー」「ちょっと待ってくれ、状況に頭が追いついていない」 ギルスが頭を抱えるのも無理はなかった、今日も適当に武器を売り買いする平凡な日常が始まると思っていたら、とんでもない人物がとんでもない物を持ってきたのだ。「とりあえず、話は聞く」 ギルスはカウンターを出て店のドアの営業中という看板をくるりと回して閉店にし、
「あ、あの、ムツヤ殿…… 口を開けて頂けますか?」 モモは照れて俯きながら言う、ムツヤは言われた通りに口をあーんと開けた。そこへモモはクッキーを近づけた。「んむんむ、美味しいですね」 裏の道具の探知盤を操作している為に両手が使えないムツヤへ茶菓子を食べさせている。ただそれだけなのに、モモは物凄い気恥ずかしさを感じている。 ムツヤがクッキーを食べ終わると、砂糖を多めに入れた紅茶を口元へ近づけた。「はぁー、紅茶とクッキーって良いですね。モモさんありがとうございます」 ムツヤは満足そうに言った、その笑顔を見てモモはニヤけた笑顔になってしまう。「そ、そうですね」 顔を隠すようにモモも
朝になりユモトは目が覚めた。若干、寝不足気味だが、時間になるとちゃんと起きてしまう。 居間ではルーが真剣な表情で探知盤を見ていた。あれからずっとそうしていたのかと思うと、ユモトは尊敬と感謝の念を覚える。「おはようございます、ルーさん」「あぁ、おはよーユモトちゃん」 元気そうにウィンクをしたが、その顔には少し疲れが見えた。「あの、ルーさんも少し休まれては?」「私が休んじゃったら探知盤見る人が居なくなっちゃうからねー、ヘーキヘーキ」「そうですね…… すみません」 ユモトは気遣って言った言葉だが、当たり前の事を返されて言葉が出なくなる。「それよりお腹空いちゃった!!! ユモトち







